本研究は、陽電子ビームの金属ターゲットへの照射によって生成されるポジトロニウムを、波長243nm(ポジトロニウムの1s-2p準位エネルギー差に相当)のレーザー照射によって励起し、それを磁場中でのクエンチ効果によって観測することを目的としている。 ポジトロニウムは生成時にエネルギーを持つため、実際には照射するレーザーの波長をドップラー効果に相当する分、離調する必要がある。そこで、生成ポジトロニウムのエネルギー測定とレーザー波長の50pm精度での調整が実験にとって必須となる。 我々はモリブデン標的に陽電子を照射し、生成したポジトロニウムの速度をTime-of-Flight法により観測した。その結果、モリブデンの仕事関数(4.4eV)のエネルギーを持つポジトロニウムとターゲットの温度に相当する熱エネルギーを持つ「熱ポジトロニウム」の生成が確認された。また熱ポジトロニウムはターゲットの温度を上昇させる事により生成数が増加することも確認できた。 励起レーザーには波長972nmのCr:LiSAFレーザー(既存装置)の四倍高調波を使用する。波長243nmの四倍高調波のエネルギーを増大させるため、新たに非線型結晶BBOの形状設計を行い、目的とする波長、出力のレーザー発振を確認した。また、レーザー光をポジトロニウム生成ターゲットに導入するための真空チャンバーと光学系を新たに構築した。 真空チャンバー内では、ヘルムホルツ・コイルの磁場によって輸送されてきた陽電子ビームを磁場のない状態でもターゲットに照射する必要がある。磁場系から非磁場系への輸送の予備実験を電子ビームを用いて行い、60%以上の効率で輸送できる事を確認した。ただし、実際の陽電子ビームは、この実験に使用した電子ビームよりエネルギー広がりが大きいため、実際の輸送効率は小さくなると思われる。
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