研究概要 |
本研究は、電子-陽電子の束縛状態である、水素様原子、ポジトロニウム(Ps)の基底状態(1s)と励起状態(2p)間のレーザー励起を磁気クエンチ効果を用いて観測し、1s→2p遷移を用いるレーザー冷却法の原理的確認を目的とする。Psの1s-2P準位のエネルギー差は5.1eVであり、波長243nmの紫外レーザーにより、励起を行う。このレーザーはCr : LiSAF結晶を972nmで発振させ、4倍高調波を取り出すことによって得ることができる。Psは、そのスピン状態により、para-Ps(pPs,スピン1重項、寿命0.125nsec)とortho-Ps(oPs,スピン3重項、寿命142nsec)に分けることができる。pPsは主に2光子に崩壊し、oPsは主に3光子に崩壊する。 Psの質量は1022keVであるため、2光子崩壊の時は511keVの光子が反対方向に放出され、3光子崩壊の時は、0〜511keVの連続分布となる。Psに磁場をかけると、ゼーマン効果により、oPsとpPsの混合が起こる(磁気クエンチ)。1s状態では、磁気クエンチを起こすには数kGaussの磁場が必要とされるが、2p状態では数百Gaussの磁場で磁気クエンチが起きる。この性質を利用して、Psの1s→2p励起を確認することができる。即ち、磁場中のPsにレーザーを照射し、1s→2pを起こすとoPs-pPsの混合が起きる。pPsはoPsに比べて1/1000以下の寿命なため、すぐに崩壊し、みかけ上、oPsからpPsへの一方的な移行が観測される。 実験では、500Gaussの磁場中でPsの崩壊時間分布とγ線のエネルギー分布をレーザーONとOFFの状態で観測した。レーザーON時にはOFF時に比べて、511keV付近のγ線数増加とOnsec付近で崩壊するPs数の増加が観測された。このことから、レーザー励起による1s→2p励起と2p状態の磁気クエンチによるoPs→pPsの移行が確認できた。
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