研究概要 |
ニュートリノ振動実験はニュートリノ質量の大問題に迫れる現在唯一の方法で、それらの実験の要であるニュートリノフラックスを高精度に測定する技術の開発は、今日のニュートリノ物理学にとって緊急の課題である。そこで、従来の方法とは質的にまったく異なる原理による検出器として、原子核乾板と金属板をサンドイッチ構造にした小型のECC(Emulsion Cloud Chamber)を製作し、ニュートリノフラックスを実測するための技術開発を行った。 1.本補助金で購入した原子核乳剤を、3種類のプラステイックベース(厚さ:0.5mm,0.2mm,0.04mm)の両面に塗布し、原子核乾板を製作した。これを鉛板やスペーサーと共にラミネート紙で包んで真空パックし、小型のコンパクトECCを製作した。 2.製作したコンパクトECCをSPring-8の大阪大学核物理センターレーザー電子光ビーム施設(BL33LEP)に持ち込み、運動量が2GeV/c,1GeV/c,0.5GeV/c,0.25GeV/cの電子ビームを照射した。超高速自動飛跡選別装置(UTS)を用いて測定したところ、2GeV/cの場合、230 electron tracks/cm^2(2 background tracks/cm^2)の密度でほぼ純粋な電子の照射ができていることがわかった。この電子の振る舞いを観測し、π中間子の振る舞いとの比較から、識別の効率は十分高いことを示すことができた。 3.製作したコンパクトECCを高エネルギー加速器研究機構KEKPSπ2 beam lineに設置し、4GeV/cのπビームを照射した。多重電磁散乱を測定して、運動量を見積もったところ、約20%の精度で測定できることがわかった。
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