水素結合系誘電体の水素-重水素混晶系において、水素を含む水素結合(ソフト水素結合)距離が混晶比に依存し、重水素を含む水素結合(ハード水素結合)距離は混晶比に依存しない。このように水素結合の性質が、水素-水素結合と重水素-水素結合で異なっていると思われる現象の発見から出発した研究である。この現象はゼロ次元水素結合系と称される誘電体で以前に見出された。これらの現象の普遍性を確認し、解明するために本研究では 1 同様の事例を他の物質で見出すこと、 2 水素、重水素の熱的もしくは量子的な揺らぎに水素結合の性質が大きく影響を受ける可能性があるので、量子揺らぎに関する理解を深めること、に主眼においた。 1に関して、水素結合が分子内にのみ制限されているという意味でゼロ次元水素結合系と類似のエタノールにおいて磁気共鳴の実験を行ったが、期待したような結果は得られなかった。一方固体における研究は、ゼロ次元水素結合系の他のメンバーを対象として進められ、出発となった現象と同様な結果を得られた。従って、少なくともゼロ次元水素結合系では、水素を含む水素結合と重水素を含む水素結合に質的差異が存在することが明らかになった。 2に関しては、量子揺らぎにより相転移を示さないことがはっきりしているチタン酸ストロンチウムを研究対象とした。酸素16を酸素18に置き換えたチタン酸ストロンチウムで観測される強誘電体相転移を調べ、この相転移がソフトモードの凍結に起因すること、及び相転移を起こすとはいえその相転移に依然として量子揺らぎが関与していることを明らかにした。 しかしながら、水素結合系では量子揺らぎがその相転移にどう影響を及ぼすのか、物性がどう変わるのかは依然として不明であり、継続した研究が必要である。
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