立方晶チタン酸バリウム(c-BT)は強誘電体の代表的物質であり数多くの研究がなされている。しかし、応用的観点からの研究がほとんどであるので、低温の物性については詳しく調べられていない。最近、我々は市販の高純度光学用単結晶を用いて、低温誘電測定を行ったところ、低温菱面体相(立方晶の[111]方向に自発分極発生)内の100K近傍において、誘電率が2000にもなるダイポールグラス転移を見出した。この誘電異常は、[111]方向に分極を揃え単分域化した試料で顕著であることから、多分域試料でみられる分域壁の運動による誘電分散とは本質的に異なる。また、誘電率の温度依存、周波数特性がPbMg_<1/3>Nb_<2/3>O_3に代表されるリラクサーの誘電特性と類似しており、ペロブスカイト酸化物強誘電体に共通する重要な性質と考えられる。何らかの原因によるdisorderが低温まで残っていて100K付近で凍結するものと思われる。その起源を実験的に解明することが本研究の目的である。 まず酸化物に共通する問題である、酸素量の化学量論組成からのわずかなずれに注目する。転移温度や自発分極と酸素欠損量の関係を明らかにするため、今年度予算で卓上型ランプ加熱製置を購入し、酸素分圧制御下で熱処理実験ができる装置を立ち上げた。これによって、酸素欠損量依存についての初期的結果が得られつつある。また、ダイポールグラス転移の静水圧依存についても初期的データを得た。これら実験を引き続き行い、酸素欠損と強誘電性の関係や低温ダイポールグラス転移との関係を明らかにしたい。
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