強磁場合成用の電気炉を作製し、熱CVD法により無磁場、1T、5TおよびSiO_2中でSiO_2およびSi基板上にNi触媒を用いてカーボンナノチューブの合成を行った。合成温度は800℃、C_2H_2ガス圧は30Torrである。走査型電子顕微鏡(SEM)観察では、無磁場合成と磁場合成との間にわずかな相異が認められるものの、収率および形状等に顕著な相異は認められなかった。また、磁場の印加方向とナノチューブ等の成長方向に相関関係は見られなかった。ガス圧の小さい場合(10Torr)、および合成温度が低い場合(10Torrで700℃)でも、SEM観察では顕著な相違は見られなかった。透過型電子顕微鏡観測では、無磁場合成より強磁場合成の方がオニオン的構造のナノカーボンの合成量が多いという結果を得たが、顕著な磁場効果は見られなかった。そこで、Feを触嬢金属とし、700℃、C_2H_2ガス圧力10Torrで合成を行った。Niの場合と異なりFeを使用した場合、強磁場中での合成によりナノチューブの収率に顕著な減少が見られた。無磁場合成では、Ni触媒とFe触媒による収率はほぼ等しいが、磁場中合成では相違が生じるという結果が本研究により初めて得られた。この結果は、NiおよびFeのCurie温度が358℃および769℃であることより、NiとFeとのCurie温度の相異によるものと考えられた。合成温度は700℃であることから、Niは常磁性であるが、Feは強磁性を維持している。磁性体金属が磁場の効果を感じ取り、成長になんらかの影響を与えている可能性が示唆された。また、熱エネルギーと比較して極めて微小なエネルギーではあるが、合成に関与するラジカルの電子スピン(g値の異方向性も含めて)および電子スピンと各スピンとの超微細相互作用等のスピン偏向に関与する効果が成長に寄与している可能性が示唆された。
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