研究概要 |
12年度 (1)1998年にわれわれが発見した強誘電体Rb_2CdI_4は処女試料の最初の冷却時にはTcにおいて誘電率が約3000にも昇るが、加熱時にはその数十分の一という小さな値を示した。これは激しい相転移のために試料が砕けているものと考えていた。そこでRb_2CdI_4の単結晶育成を再度ブリッジマン法により行い、金蒸着による電極付けを行った試料を作成して精密に誘電率の測定およびパイロ電気測定を行った。その結果、加熱と冷却において非常に再現性の良いことが分かった。誘電率の温度依存性はTc以上ではキュリーワイス則に良く一致し、キュリーワイス定数Cは2170、自発分極は4K付近で約0.4μC/cm^2と求まり、この系統の強誘電体K_2ZnBr_4などとも良く一致していることが分かった。 (2)以前われわれがその誘電特性を報告していた、β-K_2SO_4構造をとるとの報告があるTl_2CoCl_4の良質な結晶を得ることができた。Rb_2ZnCl_4などと同じ強誘電軸方向で試料を作成して誘電率の測定を行ったところ、73Kに明瞭な相転移が存在し、この転移点以下では強誘電的D-E履歴曲線が観測できた。それから見積もられる自発分極P_sは約45nC/cm^2で,以前の結果よりも10倍大きい値を示した。従って、Tl_2CoCl_4がこれまでのA_2βX_4型ハロゲン化合物の中で、最も低温側に相転移を持つ強誘電体である可能性を明らかにできた。 13年度 (1)前年度の成果において強誘電体Rb_2CdI_4の物理量が定量的に求められた。このRb_2CdI_4と室温以下4Kまでには相転移の存在しないCs_2CdI_4との混晶系(Cs_<1-x>Rb_x)_2CdI_4および、強誘電性を示す可能性のあるRb_2CdI_4と、やはり室温以下では相転移の存在しないCs_2CdI_4の混晶系(Cs_<1-x>Rb_x)_2HgI_4の、以上2種類の混晶系の結晶育成を行い、仕込み組成xによる相転移の移り変わりや強誘電性の出現の様子を観測した。その結果、xを増加することで低温側から誘電異常が現われて、高温側へシフトしていく様子がわかり、Cd塩の混晶系ではx=0.6とx=0.7において三つの誘電異常(高温側からTc',T_<s1>,T_<s2>とよぶこととする)を初めて捉えることができた。そしてD-E履歴曲線の観測により、強誘電的な様相はTc'にT_<s1>が重なって初めて観測できるものであることが分かった。 1)Rb_2ZnI_4など強誘電性の確定できない物質は、混晶系でいうTc'とT_<s1>が捉えられているだけで、本研究の結果からすれば、強誘電性は発生しなくてよいと考えてよさそうである。 2)物理的な意味はどのように考えればよいか分からないが、混晶系のTc'にT_<s1>が重なる点で、すわなち強誘電性が現われる点でα-β相転移点が消失するという傾向のあることが分かった。
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