研究概要 |
1.我々は,ニクロム酸カリウムの右巻き巨大らせん結晶は,ゼラチン媒質を構成するコラーゲン巨大分子の右巻き三重らせん構造に由来するという仮説を立てている。この仮説を実証するために,以前,コラーゲンゾルに種々の物質を添加して,コラーゲン分子配列を変化させた時のらせん成長の変化を調べた(第3論文)。今年度行った実験では,コラーゲンゾルに添加物を一切加えず,溶媒の水(H_2O)を重水(D_2O)に変えることによって,コラーゲン巨大分子の配列をアモルファス型に変えた時のらせん成長の変化を観察した。重水濃度が増加するに従って,らせん結晶の大きさが劇的に変化し,重水濃度が90%以上になると,らせんがほどけたような形の特異な結晶が得られた。この実験から,(1)高濃度のニクロム酸カリウムは,コラーゲン巨大分子配列に影響を与えない(2)コラーゲン巨大分子が正常な配列(長周期構造)をとる時にのみ,らせん成長機構が発動されるという重要な結果が得られたことになる。この実験結果を2001年3月の物理学会で発表し,次年度,論文にまとめる予定である。 2.ニクロム酸カリウムの顕微鏡サイズのらせん成長について,「その場観察」を本校の三橋研究室(研究分担者)で行い,その予備実験段階で,きわめて特異な結晶成長が観察されている。つまり,結晶成長の方向とほぼ同じ方向の成長とそれとほぼ直角外向きの成長が交互に起こることが観察された。今後,試料の数を増やして,この現象の確認を行い,さらに精密な「その場観察」を実施する予定である。
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