研究概要 |
本年度は,熱処理によって界面の乱れを系統的に変化させたFe/Cr人工格子の巨大磁気抵抗効果と磁気的な界面の乱れに関する情報を含む,中性子非鏡面反射の実験を,日本原子力研究所のJRR-3Mに設置されている3軸型中性子分光器HERをつかって行った. 試料はMBEで作成された50mm x 40mmのエピタキシャル膜を10mm x 10mmの大きさに切り出し,それぞれに異なる熱処理を行った(as-grown,623 K 1時間,723 K 1時間と7時間).この熱処理によって試料の磁気抵抗変化率,(R(H=0)-R(H>>1))/R(H>>1),は11.5,9.8,7.0,0.9%と減少した.Fe/Cr人工格子では,強磁性のFe層が非磁性であるCr層をはさんで反強磁性結合しており,Fe/Crのbilayer構造が作るBraggピークの他に,Fe層が反強磁性結合していることによるBraggピークが,通常の膜面に垂直なθ-2θスキャンで観測される.非鏡面反射プロファイルの測定はこれらのBraggピークを横切る,いわゆるTransverse Scanによって行われる. これら4つの試料の測定を行ったところ,反強磁性ピークでの非鏡面反射プロファイルは,熱処理によって大きく変化するが,Fe/Cr bilayerのピークでのプロファイルは,ほとんど変化しないことがわかった.前者は,磁気的な起源をもつ界面の乱れを,後者は,主に界面での原子配置の乱れを表していると考えられるから,この結果は,巨大磁気抵抗効果の起源である界面での伝導電子のスピン依存散乱が,原子配置の乱れよりも,それから発生する磁気的な乱れによって支配されることを強く示唆している.このような測定はこれまでに行われたことがなく,本研究によって巨大磁気抵抗効果の起源に迫る新しい知見を得ることができた.
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