研究概要 |
昨年度に引き続き偏極中性子反射率計,中性子小角散乱装置,放射光実験施設のX線分光器と,それぞれの特徴を活かすことによって,熱処理によって界面の乱れを系統的に変化させたFe/Cr人工格子の非鏡面反射プロファイルを中心として研究を進めてきた.その結果,これまでに,この人工格子で観測される巨大磁気抵抗効果を支配する界面での伝導電子のスピン依存散乱が,原子配置の乱れよりも,それに誘起された磁気的な乱れによって特徴づけられることを明らかにすることができた. 今年度は,この研究をさらに発展させるために,日英中性子散乱協力事業による世界で最高の中性子強度を持つ英国RAL研究所・ISIS中性子研究施設の偏極中性子反射率計CRISPに課題申請を行い,4日間の実験が認められた.この実験の目的は,偏極中性子が試料で反射する際にスピンの方向が維持されるか反転するかを調べることで,この測定により界面の磁気的な乱れの面内での分布を知ることができる.また,実験そのものも2次元位置敏感検出器とスピンアナライザーを組みあわせた,非常にユニークなものである.そのため,実験装置の設定に時間が必要で,十分な測定時間が取れなかったものの,以下に示すような非常に興味深い結果を得ることができた. 測定に使った試料では,界面の磁気的な乱れを示す明瞭な非鏡面反射が観測されるが,この非鏡面反射では,そのほとんどが反射の際に偏極中性子のスピンが反転する成分であり,このことは界面の乱れの成分が,面内で中性子スピンの方向を維持するために加えたわずかな磁場と垂直な方向に向いていることを現している.このような界面の磁気的な乱れの2次元的な分布が得られたのはこの系に限らず,これが最初である.しかし,巨大磁気抵抗効果との定量的な相関を明らかにするためには,さらなる測定が必要であり,今後ともこの研究を継続し,最終的な結論を得る予定である.
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