研究概要 |
人工格子における巨大磁気抵抗効果(GMR)では,界面の乱れがその発現機構に本質的な役割を果たしていることが知られている.しかし,"界面の乱れ"がなにを表しているかについては,あいまいなまま使われることも少なくない.本研究では,(1)この"界面の乱れを"フラクタルで記述される界面であると明確に定義し,そのフラクタル界面における原子配置の乱れによって誘起される磁気的な界面の乱れ,すなわち,磁気フラクタルの作り出すスピン揺らぎが,巨大磁気抵抗効果に与える影響を明らかにすること,(2)そのために必要となる,中性子非鏡面反射を用いた磁気フラクタルの定量的な評価方法を確立することのふたつを大きな目的とし,研究を推進した. 最初に非常に小さな中性子非鏡面反射の測定を可能にするために,高エネルギー加速器研究機構に設置されている偏極中性子反射率計,PORE,に偏極集光デバイスを新規に導入した.その結果,入射中性子強度の増強を波長入射偏極中性子強度を特に超波長側で2倍以上にすることが可能になった. 磁気フラクタルの研究対象としては,GMR効果が最初に発見されたFe/Cr人工格子に熱処理を加えて,界面の乱れの状態を変化させた試料を中心に展開した.この試料に対して,偏極中性子反射率計,中性子小角散乱装置,放射光実験施設のX線分光器と,それぞれの特徴を活かした様々な測定を行った結果,これまでに,この人工格子で観測される巨大磁気抵抗効果を支配する界面での伝導電子のスピン依存散乱が,原子配置の乱れよりも,それに誘起された磁気的な乱れによって特徴づけられることを明らかにすることができた.
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