研究概要 |
硫化鉄(FeS)は常圧下でtroilite(P62c)構造を取る反強磁性半導体(T_N=589K)である。また、室温・圧力下で連続的な構造相転移を3.5,6.5GPaで起こす。その構造相転移に伴い半導体-金属-半導体へとその電子状態も変化する。このような構造変化を伴う強相関電子系の相転移においては、電子相関のみならず電子-格子相互作用も重要な役割を担っていると考えられる。従って、圧力下でのフォノン分散関係・状態密度を実験的に求めることが相転移を理解する上で重要である。そこで我々は、放射光単色X線を用いた^<57>Fe核共鳴非弾性散乱(NIS)を測定し、FeSの高圧力下フォノン状態密度を求めた。さらに高いSN比のNISスペクトルを測定するために、新たにダイアモンド・アンビルを設計し圧力発生装置として作成した。 測定したスペクトルには相対エネルギー・ゼロ(14.413keV)に、核共鳴弾性散乱(メスバウアー効果)による強い強度のピークが存在する。さらに、フォノンの生成・消滅が関与する核共鳴吸収による、非弾性散乱成分が有限の相対エネルギーの位置に観測されている。局所フォノン状態密度を求めるために、この非弾性散乱成分を調和振動格子モデルにより、マルチフォノン効果を考慮して解析を行った。この解析により構造相転移に伴う局所フォノン状態密度の変化を観測した。低圧相と中間圧相では10〜20meV付近のフォノン状態密度に大きな変化が観測された。さらに、6.5GPaでの転移が約10%体積減少を伴うために,最高圧相では局所フォノン状態密度が他の低圧相に較べて高エネルギー方向にシフトしていることが分かる。さらに、この局所フォノン状態密度の圧力依存性は、Fe電子状態に強く依存していることが分かった。
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