1次元量子スピン鎖上のソリトンの束縛状態であるBreather励起を、ESRで直接的に観測することに初めて成功した。量子スピン鎖の代表物質であるCuBenzoateに関して、1K以下の極低温領域においてESR実験を行い、Breatherの励起エネルギーが磁場とともに非線形に増大することを観測し、磁場に対するBreatherエネルギーの依存性を精密に決定することに成功した。 その結果によれば、磁場が飽和磁場の30%程度より小さい場合には、磁場に対するべきは量子サインゴルドン系で予想される2/3に実験誤差の範囲で一致をした。一方、より高い磁場中では、Breatherエネルギーの磁場依存性が小さくなっていくことを見いだした。これは、量子サインゴルドン理論の強磁場極限での適用限界や、磁場に関する繰り込みパラメータの依存性に関する理論的研究の指針となる重要な実験である。また、非線形系に特有な高次の励起モードをESRによって、見いだした。これまで知られていた、逓倍の高次モードと異なり、今回見つけられた高次励起モードは、基本励起モードの整数倍になっておらず、量子系に特有な現象と考えられる。 さらに、量子スピン鎖CuBenzoateにおける鎖間相互作用の大きさと、3次元磁気秩序の有無を調べるために20mKの超低温でミュオンスピン実験を行った。その結果、20mKでも磁気転移を起こさないことが証明された。この結果は、CuBenzoateが今まで知られている中でもっとも良い一次元性をもった物質であることを示している。
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