一次元微小ジョセフソン接合列の散逸誘起超伝導転移

2001 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 12640336
• 研究機関: 筑波大学
• 研究代表者: 大塚 洋一 筑波大学, 物理学系, 教授 (50126009)
• キーワード: ジョセフソン接合 / 単電子帯電効果 / 微小トンネル接合 / 超伝導絶縁体転移 / 巨視的量子効果 / 散逸 / コヒーレンス / 一次元系

研究概要

微小な超伝導トンネル接合の1次元列では本来巨視的な物理量である超伝導位相の量子ゆらぎが重要になり、それによって配列の基底状態は超伝導状態から絶縁体状態に転移する。この転移における散逸の影響を調べるのが本研究の目的である。
昨年度に続き、電子線リソグラフィー法によって各接合にCrの並列抵抗を取り付けたジョセフソン一次元接合列を作製し、その極低温における伝導特性の測定を行った。最低温度での抵抗の温度依存性及び電流・電圧特性には明瞭な超伝導特性あるいはクーロンブロッケイド特性のいずれかが見られた。この結果を基に、量子性を表すE_J/E_Cと散逸の度合いの指標であるR_Q/R_Sの両パラメータ空間での絶対零度の相図を決定した(ただし、E_J:ジョセフソン結合エネルギー、E_C:単電子帯電エネルギー、R_Q:量子抵抗、R_S:シャント抵抗)。R_Q/R_S軸上の相境界はR_Q/R_S〜1にあり、Fisherらの理論的予想と矛盾しない。一方E_J/E_C軸上の境界は理論の値より大幅に小さい。後者の原因としていくつかの可能性を検討したが、まだその原因は明確にはなっていない。この研究の前に行った2次元配列の結果と比較すると、1次元系ではE_J/E_C軸方向に絶縁体相がのびている。これは、1次元系では揺らぎがより強く現れるという直感と一致する。これを直接検証するために、列の幅を1接合から順次増やした試料を作成し測定した結果、幅による絶縁体・超伝導転移を明確に確認した。これらの結果は、国際会議等で発表すると共に現在論文公表の準備を進めている。
同様な転移は、1次元列の電気化学ポテンシャルを変えることによっても起きることが理論的に予測されている。しかし、この転移を実証した実験報告はまだなく、ランダムな背景電荷の存在が転移の観測を阻害していると考えられる。これを解決するために、独立ゲート電極をつけた1次元接合列の研究に着手した。

研究成果

• [文献書誌] T.Yamaguchi, R.Yagi, A.Kanda, Y.Ootuka, S.Kobayashi: "Phase Diagram for Two-Dimensional Arrays of Small Josephson Junctions with Shunt Resistors"Physica C. 352/1-4. 181-185 (2001)
• [文献書誌] 山口尚秀, 神田晶申, 大塚洋一: "ジョセフソン接合2次元配列における摩擦による超伝導・絶縁体転移"物性研究. 76-2. 183-188 (2001)
• [文献書誌] T.Yamaguchi, H.Miyazaki, A.Kanda, Y.Ootuka: "Superconductor-Insulator Transition in One- and Two-Dimensional Arrays of Dissipative Small Josephson Junctions"Proceedings of ISQM-Tokyo 2001. (発行予定). (2002)
• [文献書誌] 山口尚秀, 宮崎久生, 神田晶申, 大塚洋一: "ジョセフソン接合配列における散逸による超伝導・絶縁体転移"物性研究. (発行予定). (2002)