研究概要 |
高温超伝導銅酸化物と同型の結晶構造を有し銅イオンを含まない超伝導体であるSr_2RuO_4のスピン遥動を中性子散乱実験で研究するために、単結晶試料を作成しスピン揺動の非弾性散乱スペクトルを測定した。中性子非弾性散乱実験用の大型単結晶試料を我々で育成し、その単結晶試料を用いて日本原子力研究所改造3号炉に設置されている物性研究所の3軸型中性子分光器で非弾性散乱プロファイルを測定した。比較的エネルギーの低い1.3meV,2.5meV,3.5meVについて、常磁性相の10KとほぼTcに等しい1.4Kにおいて動的構造因子のQプロファイルの温度変化を比較した。するとS(Q,ω)のままで、すでに低エネルギーサイドで急激に散乱強度が減少していることが顕著に見て取れる。Sr_2RuO_4のスペクトルはほとんど一定なQ幅を示し、Q積分したスペクトル密度のエネルギー依存性のみが系のスピン応答の特徴を与えている。このような動的構造因子の振舞いは多くの異常金属相において観測されている共通な特徴である。そこでエネルギー依存性の特徴を明らかにするために各スキャンをQについて積分し温度因子も落として帯磁率の虚部χ"(ω)になおすことにより、約25meVまでのエネルギー範囲で動的帯磁率のエネルギー・温度依存性をみてみた。動的帯磁率は100Kから10Kまでの間で大きくプロファイルが変化し、温度の低下とともにスペクトル密度は低エネルギーサイドに集中してくる。観測された動的帯磁率を定量化するためにローレンツ関数にフィットしてその積分強度とエネルギー幅の温度依存性を求めた。その結果Sr_2RuO_4のスピン遥動は、エネルギー幅Γの温度依存性として温度に対して線形に変化しており、Γ(T)=Γo+a・k_BTであたえられることが見いだされた。ここにΓo=8meV、a〜1.0である。もしΓoがゼロであればこの系のスピン揺らぎは擬フェルミ液体的なΓ(T)=k_BTとなるが、この系は非常に大きなΓoの値を示し、この大きなΓoはこの系のスピン揺らぎの特異性を表している。
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