有機超伝導体κ-(BEDT-TTF)_2Cu(NCS)_2は、生来の層状構造により増大した超伝導ゆらぎ効果のため、超伝導転移が不明瞭になり明確な上部臨界磁場を示さない。この物質の超伝導転移現象を探るため、量子振動効果に現れる超伝導による振動減衰の測定および解析を行った。 ブリストル大学と共同で進めたドハース・ファンアルフェン効果の実験結果に現れる超伝導減衰因子の温度依存性、角度依存性に関する解析を進めた。0.5Kまでの温度範囲でのゆらぎによる超伝導ギャップを定量的に明らかにし、また超伝導及びそのゆらぎ効果が2次元的であることを明らかにした。また常伝導域の2次元性との関連を探るため電気抵抗異方性の温度依存性を測定した。 一方、電気抵抗の量子振動(シュブニコフ・ドハース効果)をヘリウム3クライオスタットと科学研究費補助金にて購入した超伝導磁石により発生した0.55K、9Tの低温磁場下において、常圧、および2kbarの圧力下で測定した。シュブニコフ・ドハース効果は6.8T以上の磁場で観測された。6.8-7.3Tの磁場範囲では振動振幅の低減が見られた。圧力により超伝導を抑制した状態では振動減衰は見られず、先の減衰因子が確かに超伝導によるものであることが明らかになった。しかしながら既存の装置で得られる0.55Kでは解析に使える磁場範囲が狭く、定量的な解析に問題が残った。これは今後、さらに低温での希釈冷凍機による測定が必要である。 また、他のκ型BEDT-TTF塩あるいはBO錯体でも量子振動効果の測定を試みたが、少なくとも0.55Kまでは超伝導転移領域における量子振動効果を測定するに至らなかった。
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