研究概要 |
強相関電子系の典型例として、先ず銅酸化物高温超伝導物質を考える。銅酸化物高温超伝導物質は、母物質であるモット絶縁体に正孔をドープしたものである。この物質に関する温度Tと正孔ドープ量δとで描かれるT-δ相図において、超伝導遷移温度T_cより高温側に異常金属相と呼ばれる領域が存在し、そこでは同物質は様々な異常な物性を示す。 我々のシナリオによれば、異常金属相の高温側では、超交換相互作用J_sによって誘起された反強磁性揺らぎが主役を演じ、低温側では、超伝導揺らぎとそれによって誘起されたpseudogapが主役を演じる。主役の演じ手の入れ替わりが、異常金属特性を決めている。このようなシナリオを実証するために以下の考察を行った。 超伝導ゆらぎと反強磁性スピンゆらぎそれぞれの強さを表す感受率の計算に際して、自己エネルギー補正として超伝導ゆらぎと反強磁性スピンゆらぎの両者の効果を考慮した準粒子グリーン関数を用いる。(self-consistent t-matrix近似及びFLEX近似)数値計算により、両感受率及び準粒子グリーン関数に関する自己無撞着解を得た。それらの結果より、実験結果をよく説明するT-δ相図を与えることができた。これによって、銅酸化物高温超伝導に関する最も基本的な問題は解決された。(Kobayashi, Tsuruta, Matsuura and Kuroda, J.Phys.Soc.Japan 70(2001)1214.) これまでは、正孔ドープ(δ>0)の場合を考えてきたが、電子ドープ(δ>0)の場合についても同様なシナリオが成り立つことを確かめた。また、T-δ相図におけるδの正負に関する非対称は、準粒子状態の生い立ちの違いによって説明されることが判った。(Kobayashi, Tsuruta, Matsuura and Kuroda, J.Phys.Soc.Japan 71(2002)1640.)
|