NMRは内部磁場の観測を通して、磁気構造に関する情報を与える。しかし、NMRから議論されるパラメータは中性子回折から議論される磁気構造と必ずしも一致しない。これは観測時間の違いなどの本質的なことが原因になっている場合もあるが、多くの場合NMRの解析で何らかの寄与が無視されているためであり、NMR側の問題である。しかし、一方で、正確な解析を行えば、中性子回折だけでは得られない情報や、より本質的な情報が得られる可能性がある。 本年度は、長く研究してきた遍歴電子フラストレート磁性体YMn2のスピンの揺らぎおよび磁気構造に関する研究を総括する論文をいくつか出版した。また、関連するいくつかのラーベス相化合物のNMRを行った。たとえばTiMn2の水素吸蔵合金での強磁性出現や、高圧合成RCo2における自発磁気モーメントの発生に関してである。これらの研究はいずれもNMRが有効に機能した例であり、今後、順次公表される予定である。 また、バナジウム硫化物(BaVS3、V5S8等)を中心としたカルコゲナイドの研究を行った。これらの物質ではNMRで観測される共鳴周波数(内部磁場)が中性子回折から見積もられた磁気モーメントに比べて小さいという問題点があったが、強磁性体を含むいくつかの化合物の系統的な研究から、これらの物質では内部磁場の異方性が大きく、等方性磁場と異方性磁場の相殺が見かけの内部磁場を著しく小さくする可能性があることがわかった。これらの結果も順次公表する予定である。
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