今年度は、層状物質である酸化物高温超伝導体などにおいて磁場下で生じる渦糸状態の相図に関する問題を取り上げた。まず、「ジョセフソン渦糸グラス転移」と題して、層に平行な磁場下での層状超伝導体におけるジョセフソン渦糸系の乱れがある状況を考えた。平行磁場中で特に高磁場では、層構造によるピニング効果が強まり渦糸は層間に閉じ込められるため、乱れの無い状況の物理量や渦糸固体融解温度は磁場に依らなくなる。最近のビスマス系での交流帯磁率データが示す超伝導転移温度は明瞭な磁場依存性を示し、系の乱れにより融解転移は消失して乱れによるグラス転移が低温側で起きているとしか解釈できない。本研究では、平行磁場中相図に関するこの描像を他の物質にも適用できる理論として定式化した。系の乱れによる下部臨界点の存在を示唆するごく最近報告のあったイットリウム系の抵抗データはこの理論により無理なく説明される。また、層に垂直な磁場中の相図の問題の一つとして、渦糸固体の一次融解転移が弱い線状乱れの導入により強められることを示唆したイットリウム系の抵抗データを説明する動機から、線状乱れと(現実の系には必ず存在する)点状乱れの両方を含んだ状況における渦糸グラス転移の問題を取り上げた。得られた結論は、きれいな系では点状乱れによる渦糸グラス転移が融解転移によりその直下で起きると予測されるが、そこに線状乱れを含めるとグラス転移線と融解線の間隔が狭まるというもので、抵抗実験で一次転移に伴う抵抗消失が線状乱れ導入の後、よりシャープになることから示唆された一次転移の増強は、むしろ二つの転移線間の渦糸スラッシュと呼ばれる領域の消失として理解できることを示したことになる。
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