平成14年度の研究の多くは、均質なアモルファス金属膜を主として対象にして平成13年度に論文発表した磁場誘起超伝導・絶縁体転移の理論を基礎に行われた。銅酸化物超伝導体や有機超伝導体など近年脚光を浴びている物質に見られる異常な磁場中輸送現象を複数取り上げ、実験データを定性的あるいは定量的に説明することにより、それらが強い量子超伝導揺らぎに起因することを示した。 まず、13年度の研究内容を補強する意味でMoSiやBiなどの金属膜の低温での抵抗現象の高温面抵抗値依存性が我々の理論とコンシステントであることを、実際に電気抵抗を計算することにより示した。これにより、超伝導・絶縁体転移の反映である臨界磁場値での温度に依らない抵抗値が一般には物質パラメタに依存する量であることが明確に示された。次に、同じ量子超伝導揺らぎに起因する現象として、低ドープ域の銅酸化物高温超伝導体や有機超伝導体といった極端に超伝導揺らぎの強いと思われる系の渦糸液体領域における輸送現象を考えた。これらの系では共通して、熱力学量が示唆するHc2線よりもはるか低磁場側で抵抗データが急激に減少する。これは熱的超伝導揺らぎの強い系における現象とは根本的に異なりさらに揺らぎの効果が強い状況になると超伝導揺らぎの性格が有限温度においても量子的になるという理論的事実の帰結であることがわかった。このアイデアに基づき定式化した理論を用いて、抵抗データの定量的説明を行い、上記物質の超伝導性に関する知見を一新するのに貢献できた。
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