平成12年度は3次元層状超伝導体の渦糸状態に関する2つの題材を取り上げた。まず、層に平行磁場下で生じるジョセフソン渦糸系からなるグラス相への転移線を理論的に調べ、この仕事の発表から2年ほど経った最近になって、複数のグループの実験結果においてこの理論の正当性が確認されている。さらに、層に垂直な磁場下における渦糸状態のとる相図の物質依存性を説明する理論を提出し、1次転移線の高磁場、低磁場両側に臨界点があることが予言された。イットリウム系の実験事実を中心に、この理論的予想もまた確認されつつある。 平成13、14年度の中心的題材は磁場中超伝導揺らぎとそれに起因する量子渦糸液体領域に関するものであった。まず、均質なアモルファス金属膜を対象に微視的電子状態の記述から出発した磁場誘起超伝導・絶縁体転移の理論を提出した。Bi膜、MoSi膜など様々な系での現象の違いが統一的に説明できることを示した。さらに理論を、微視的な記述に関し確立していない銅酸化物超伝導体や有機超伝導体など強相関電子系物質に現象論的に適用し、これらの物質に共通に見られる異常な磁場中輸送現象を定性的あるいは定量的に説明することにより、それらが強い量子超伝導揺らぎに起因することを示した。
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