(1)ノンコリニアー磁性の第一原理的研究 小田が開発した2成分スピノルの波動関数を用いたノンコリニアー磁性状態計算法と第一原理分子動力学法を組み合わせて、液体酸素の計算を行い、原子間の相関を示す動径分布関数や原子構造因子S(Q)について実験結果とよく一致する結果を得た。また、酸素分子二量体の衝突滞在時間の解析から、数は非常に少ないものの長寿命の二量体も実際に存在すると予想される結果を得た。 ノンコリニアー磁性の第一原理分子動力学計算コードの開発の一環として、計算コードの並列処理高速化、一般化密度勾配近似(GGA)計算への拡張、結晶系への拡張、金属系への拡張を行った。 (2)線形応答理論に基づく格子振動計算コード開発 擬ポテンシャルと平面波基底を用いて、変分的密度汎関数摂動論に基づく第一原理格子振動計算プログラムの実装を行った。我々の方法の特徴は、まず第1に、原子変位に対する波動関数と電荷密度の応答を線形応答の範囲内で全エネルギーの二階微分を最小化することにより最適化したことと、第2に、一次の波動関数の最適化(エネルギーの二階微分の最小化)の方法として、初めてdamped molecular dynamics法とLagrangeの未定乗数法を採用したプログラムコードを開発したことである。この方法は単純ではあるが、非常に安定した波動関数の収束が得られると同時に、計算にかかる労力などは他のエネルギー最小化の方法と同様、無摂動系の計算と同程度で済むことが確認された。また、この方法は、非常に単純で、既存のCar-Parrinello分子動力学コードに密度汎関数摂動論を実装するのに非常に適したものであり、今後原子変位に限らない様々な摂動に対する応答関数の計算コードの開発の基礎となり得るものである。
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