研究概要 |
ランダムスピン系や通常ガラスなどが示す、平衡状態へ向かうきわめて遅い緩和過程-ガラス的なダイナミクス-を解明する目的でスピングラス(SG)を取り上げ、短距離相互作用型(EA)SG模型におけるエイジング現象を様々な側面からモンテカルロ法によるシミュレーションで解析し、以下の成果を得た。すなわち、SG模型におけるエイジング現象が、系を急冷した後にSG秩序(ドメイン)が熱活性化過程によって成長していくという描像(液滴描像)がよく当てはまることを示し、特に、急冷後時間twを経た時に観測される諸物理量が、その時点までに成長したSGドメインサイズR(tw)と、twあたりで時間スケールtで生じる液滴励起のサイズL(t)を用いたスケーリング表式でよく記述されることを明らかにした。具体的な現象に関する得られた成果を以下に列記する。1)ゼロ磁場下で低温まで急冷してから磁場を加え、徐々に温度を上げていくとき観測される(ゼロ磁場冷却)磁化のシミュレーションを行い、温度変化があってもR(tw)は累加的に成長すること(記憶効果)を見出した。その成長則を、時間スケールが10桁以上異なる現実のSGに対する実験結果に適用したところ、R(tw)を変数としてプロットしたすべての磁化のデータが一つのユニパーサル関数に載ることを検証した。このようなシミュレーションと実験との直接的な一致はエイジング現象の研究においては初めてのものである。2)4次元イジング模型の等温エイジング過程を詳細に調べ、R(tw)の成長則や、ゼロ磁場冷却磁化の時間発展が、液滴理論が予言する通りであることを初めて検証するとともに、R(tw)とL(t)が同程度になる時間領域において、液滴励起エネルギーが異常に小さくなることを見出し、これが、実験で観測されている、ゼロ磁場冷却磁化と磁場中冷却磁化の違いを与えることを示した。3)交流磁化率を通して3次元イジングSG模型の温度シフト過程を調べ、諸物理量に対するR(w),L(t)によるスケーリング表式を検証するとともに、カオス効果(または若返り効果)の前兆と考えられる現象を3次元系のシミュレーションで初めて見出した。
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