情報伝送の基本的手法である誤り訂正符号をスピングラス理論として再解釈することにより、情報科学(特に情報理論)で明らかにされている様々な結果がスピングラスの立場からどう解釈されるかについて、既存の知識の徹底した調査を行った。より具体的に書けば、情報理論の諸定理を適切な対応関係に基づいてスピングラスの言葉に翻訳し、それぞれについて統計力学の立場からの有用性について検討を行った。かなりの部分は、情報科学としての重要性とスピングラス理論としての重要性の間に開きがあることが明らかになった。例えば、シャノンの通信路符号化は、復号が完全に成功するための条件を与えるものであるが、これをスピングラスの理論の枠組みの中で再解釈すれば、完全強磁性解の存在条件に相当する。信号の復号は完全でなければ、価値が著しく低下するが、強磁性体では磁化が最大値を取らなくても重要な意義がある。 関連した問題として、スピン系における量子効果とランダムネスの競合の問題を、無限レンジ模型を厳密に解くことにより研究した。その結果、相図の構造の定性的な決定には量子効果は積極的な役割を果たしてないことが明らかになった。それにもかかわらず、このモデルにおける低温の相図には種々の臨界現象の典型例が数多く見られ、フラストレーションとランダムネスの競合のみであっても自明でない現象が生起することが確認された。
|