本研究では、高分子濃厚系の示す空間的不均一構造を理論的に予測する手法である自己無撞着場理論の実際的な問題への応用を行うとともに、自己無撞着場理論を動的な問題に拡張することを試みた。 本研究では、まず自己無撞着場理論を高分子濃厚系の平衡状態の種々の問題に適用し、その有効性を検証した。具体例として、トリブロック共重合体のミセル形成、ブロック共重合体の添加による界面張力の変化、高分子ブラシをグラフトしたコロイド球の間の相互作用の計算等の問題を解析し、複雑な分子構造を持つ高分子の配位の変化が、粒子間相互作用や界面現象において種々の重要な役割を果たしていることが確認された。 次に、平衡状態に対する自己無撞着場理論の計算手法を動力学の問題に拡張することを試みた。自己無撞着場理論の動力学拡張のもっとも単純な手法は、鎖を構成する単位であるセグメントの濃度分布が化学ポテンシャルの勾配に比例して流れるという線形拡散の法則(Fickの法則)を仮定するものである。この動的自己無撞着場理論を用いて、固体基盤上の高分子薄膜の相分離過程と膜表面の構造形成、ブロック共重合体ブレンドにおけるミクロ相分離とマクロ相分離の競合による複雑なドメイン構造の生成などの問題を解析し、現実の実験の結果に対応するシミュレーション結果を得ることが確認できた。また、このような動的拡張の正当性の検証も併せて行った。 外力等によって鎖配位が大変形する領域では、上記の動的自己無撞着場理論は破綻するので、鎖の変形を定量化するために、経路積分の計算においてボンドベクトルの分布関数の異方性を導入した。この新しい動的自己無撞着場理論の検証がずり変形下のブラシ系を用いた研究により示された。
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