研究概要 |
スピングラス転移に関するカイラリティ機構を検証することを目的として、磁場中での3次元等方的ハイゼンベルグスピングラスの大規模数値シミュレーションを行い磁気相図と相転移の性格を定めた。通説では、3次元等方的ハイゼンベルグスピングラスは零磁場有限磁場ともに相転移を示さないものと広く想定されているが筆者らはこれまでの計算により零磁場では通常のスピングラス秩序化を伴わずにカイラリティのみがオーダーするカイラルグラス転移が起きることを明らかにした。今回の計算は、有限磁場でのカイラル秩序化を扱った初めての計算である。カイラリティ仮説では、有限磁場中でも零磁場中と同種のカイラルグラス転移が起きること相図中での転移線の形が磁場に対してシンギュラーにならないといった性質がが予想されている。 今回は温度交換の拡張アンサンブル法を用いて完全な系の熱平衡化を行い、サイズL=20までの計算を±J型のカップリングを仮定し、いくつかの典型的な磁場値(H/J=0.1,0.5,1...)に対して行った。その結果、基本的にはカイラリティ仮説の予想を支持する結果を得た。即ち有限磁場中でもスピンの横成分(外部磁場に垂直な成分)の秩序化を伴わないカイラルグラス転移が起きること臨界現象は零磁場の時と類似でイジングスピングラスとは大きく異なること低温カイラルグラス相は1ステップ的なレプリカ対称性の破れを伴うこと、などが明らかになった。また磁場中での転移温度はH〜J程度の高い磁場値までほとんど磁場によって変化せず、カイラルグラス相は磁場に対して極めて安定であるという結果を得た。
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