平成12〜13年度は、上研究課題に関して熱力学と情報理論の立場からアプローチした。まず、二つの独立な部分系からなる全系のエントロピーが各々の部分系のエントロピーの何らかの関数であるという"composability"を仮定した場合、熱力学の第ゼロ法則から一般に非加法的エントロピーの合成則が導かれることを示した。次に、そのような非加法的エントロピーから出発して熱力学的Legendre変換構造を確立すると、エントロピーが加法的な量に転質することを見い出した。以上により、非加法的な熱力学的関係式が定式化された。次に、非加法的エントロピーをもつ二つの系の熱的接触を考え、その定常状態の巨視的性質が通常の"Boltzmann因子ではなく、ベキ則的な振る舞いをする量で特徴づけられることを示した。これは、いわゆるGibbsの定理の拡張になっている。非加法的Tsallisエントロピーに基づく情報理論の拡張についても試みた。特に、非加法的条件付きエントロピーと混合状態に含まれる量子エンタングルメントの問題との関係について調べた。ただし、一般の混合状態の分離可能性は情報理論的アプローチでは判定不可能であるため、対象を2×2Werner-Popescu状態と呼ばれるものに限定した。非加法的情報理論が、von Neumannエントロピーに基づく加法的情報理論よりも優れた結果を導くことを示した。最後に、ベキ則的な振る舞いをする波動関数をもつ量子系の情報理論的不確定性関係について調べた。このような波動関数においては、通常のHeiscnberg型の不確定性関係は分散が発散するため、意味を失う。一方、そのような場合でも情報理論的不確定性関係は常に有限の量のみで書かれる。これによって、通常の不確定性関係で評価できない波動関数の性質を詳しく調べることが可能になった。
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