シリカ微粒子が3次元的ネットワークを形成したシリカエアロジェルと呼ばれる物質に陽電子を入射すると、微粒子内部あるいは表面でポジトロニウムを形成する。ポジトロニウムは、シリカに対する仕事関数が負であるために、微粒子間の空隙に飛び出し、微粒子表面と衝突しながらエネルギーを失い、やがて自己消滅する。シリカエアロジェルを気体中に置けば、気体分子が空隙中に入り込むため、ポジトロニウムはシリカ微粒子のみならず、気体分子とも衝突することによってエネルギーを失う。この様子を陽電子消滅2光子角相関法を用いて観測すれば、ポジトロニウムがエネルギーを失っていく様子を測定することができる。 本研究ではこのことを利用して、まず、Ne、H_2、N_2、CH_4、C_2H_4中におけるポジトロニウムの熱化の様子を観測し、ポジトロニウムとこれらの分子との間の運動量移行断面積を求めた。その結果、Neでは(10±7)×10^<-16>cm^2、H_2では(17±5)×10^<-16>cm^2、N_2では(26±8)×10^<-16>cm^2、CH_4では(17±8)×10^<-16>cm^2、C_2H_4では(23±7)×10^<-16>cm^2が得られた。 次に、永久双極子モーメントがポジトロニウムの熱化に与える影響を調べるために、neo-C_5H_<12>とiso-C_5H_<12>の2種類の気体中におけるポジトロニウムの熱化の比較を行った。neo-C_5H_<12>は永久双極子モーメントが0であるのに対し、iso-C_5H_<12>は0でない永久双極子モーメントを持っている。したがって、ポジトロニウムがこれらの気体分子と散乱する際、永久双極子モーメントがポジトロニウムの熱化に及ぼす影響が大きいものとすれば、これらの気体のうちiso-C_5H_<12>中の方がneo-C_5H_<12>中に比べてポジトロニウムの熱化が速いはずである。しかしながら、得られたデータは、むしろneo-C_5H_<12>の方がポジトロニウムの熱化が速いということを示している。このことから、ポジトロニウムの熱化に対する永久双極子モーメントの効果は小さいと言える。
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