本年度は前年度に引き続き数値繰り込み群法の基礎と高次元化に関する研究を行った。本研究課題における「数値繰り込み群」では、広義の密度行列対角化等を経由して、転送行列の最大固有値状態(または、ハミルトニアンの基底状態)の波動関数を構成する局所テンソルの表現基底として採用するものを少数の重要なものに限定する(留保基底数を限定する)プロセスが肝要である。そのため、計算誤差は、主として「採用されなかった基底」の効果によるものである。この効果は、定量的には切断誤差(truncation error、TEと略記)として取り扱うことができる。これまでは、計算物理量の誤差とTEとの関係はもとより、留保基底数とTEとの関係についても、はっきりしないままであった。本年度は、数値繰り込みの重要な基礎としてのTEに関する定量的な研究に着手した。 留保基底数とTEとの関係については、前年度までに得られている密度行列固有値の普遍漸近分布を用いることによって準解析的な議論を行った。現在までのところ、系の臨界性と留保基底数の兼ね合いによって、クロスオーバー的な振る舞いになるとの予想が得られている。現在、この予想と実際の数値計算との関連について検討を加えている。物理量誤差とTEとの関係については、摂動論的な議論を用いて、ある程度一般的な議論ができるが、実際の数値計算結果はこの単純摂動計算と一致しない場合があり、現在その理由を検討中である。 高次元化に関しては、前年度までに基本部分が確立した「縦密度行列法」(VDMA法)の改良を試みた。高次元では、計算資源の制約から留保基底数が大きく取れないため、必然的にTEも無視できるほど小さくはない可能性がある。この点に留意して局所テンソルを最適化する改良アルゴリズムを考案し、現在、その性能をテストしている。
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