平成12年度:数値繰り込み群法(いわゆるDMRG)の高次元化と単純な系での有効性の確認を行った。1次元量子系・2次元古典系の場合の固定点波動関数の行列積構造を踏まえ、3次元古典統計系に対し、行列の拡張版である高階テンソルを導入し、ターゲット状態(転送行列の最大固有値状態)の波動関数を「テンソルの積の和」の形に置いた。この波動関数を用いた密度行列の計算や物理量期待値の計算は、実質的には1次元低い古典統計系の計算になるため、2次元古典系でのアルゴリズムを用いた。この意味で「高次元DMRG」はアルゴリズムの「入れ子」構造として実現可能となることを示した。 平成13年度:高次元数値繰り込み群法の具体系への応用(高分子系の相転移)、および密度行列アルゴリズムの基礎(固有値分布の普遍的漸近形に対する物理描像)に関する研究を行った。ある種の高分子系を3次元頂点模型として表現し、3次元DMRGを適用し相転移の有無を議論した。また、ある種の3次元頂点模型に対し3次元DMRGを用いて計算したゼロ点エントロピーと、いわゆるPauling近似との比較を行い、良好な一致を見た。密度行列固有値分布の普遍的漸近形に関しては、可解模型での結果から、漸近形を特徴づける2つの指数(メイン指数およびサブ指数)を同定し、それらの値の普遍性の物理的描像に関する研究を行った。その結果、メイン指数に関しては、「重み」が線形に増大してい半無限1次元系のエントロピーとして自然に解釈できることがわかった。この観点からは、非常にロバストな指数であることが期待されることとなった。サブ指数に関しては、既存の可解模型に関する計算を行った結果、いずれの場合も共通の指数となることが判明したが、この事実の物理的解釈までには至らなかった。 平成14年度:主として密度行列アルゴリズムの基礎に関して、物理量の計算精度と密度行列固有値分布の普遍的漸近形との関連についての研究を行った。固有値分布の普遍的漸近形より、留保基底数による「打切り誤差」の普遍形が導かれる、との考えから計算を進めたが、確定的な結論には至らなかった。
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