負ミュオンが水素同位体の混合系に停止した時、軽い同位体のミュオン原子のミュオンは、重い同位体との衝突により移行し、新たなミュオン水素原子を形成する。このミュオン移行反応は主に同じ主量子数の間で起こり、エネルギー準位の差の小さな励起状態ほど速くなる。ミュオン原子が基底状態に到達する際に放射されるライマンX線を検出する事により、基底状態のミュオン原子の数を測定する手法を確立し、直接測定する実験を開始した。予備実験で得られたX線の時間スペクトルには、dμ K_α X線には遅延成分が見られるようだが、dμ K_β X線や、pμ K_α X線・K_β X線にもそのような成分は見られない。これは、ミュオンがpからdに移行して出来たdμ原子が関連しているようである。特に、dμ K_β X線は、他と変わらない時間スペクトルを持っていることから、主量子数n=2の状態が鍵となる。 X線測定の時間分解能を格段と向上させるために、2000年5月から6月にかけて、カナダのTRIUMF研究所において、DC状のミュオンビームを用いたミュオン移行反応の実験を行った。実験装置の主な部分はこれまでの実験で用いた装置をそのまま輸送して使用しようとしたが、TRIUMF研究所での実験装置のくみ上げ時にガス容器に漏れがあることがわかり、その修理に時間がかかるなどして、割り当てられてビームタイムをすべて有効には使えなかった。しかし、検出器、データ処理回路系、データ収集系の構築は順調に進み、当初の計画の70%程度のデータは収集することができた。データの整理、検出器の性能評価、校正の手順で、データ解析がすすんでおり、最初の結果がでるまでには、もうしばらくかかるものと思われる。
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