負ミュオンが水素同位体の混合系に停止した時、軽い同位体のミュオン原子のミュオンは、重い同位体との衝突により移行し、新たなミュオン水素原子を形成する。このミュオン移行反応は主に同じ主量子数の間で起こり、エネルギー凖位の差の小さな励起状態ほど速くなる。ミュオン原子が基底状態に到達する際に放射されるLymanX線を検出する事により、基底状態のミュオン原子の数を測定する手法を確立し、直接測定する実験を開始した。予備実験で得られたX線の時間スペクトルには、dμK_αX線には遅延成分が見られるようだが、dμK_βX線や、pμK_αX線、K_βX線にもそのような成分は見られない。 X線測定の時間分解能を格段と向上させるために、カナダのTRIUMF研究所において、DC状のミュオンビームを用いたミュオン移行反応の実験を行った。カナダへの輸送に問題があったのか、X線検出器の一部のチャネルに高電圧をかけることができず、稼動できたチャンネル数が減少した。さらに、ミューオンビームの強度を上げると、X線検出器での検出頻度が高くなり、パイルアップによる検出効率の減少がみられ、あえてミューオンビームの強度を低くしたまま、データ収集を余儀なくされた。データ解析がほぼ終わり、dμK_αX線には74nseの時定数をもった遅延成分が見られ、一方、dμK_βX線や、pμK_αX線、K_βX線にもそのような成分は見られない。これは、ミュオンがpからdに移行して出来たdμ原子が関連しているようである。特に、dμK_βX線は、他と変わらない時間スペクトルを持っていることから、主量子数n=2の状態が鍵となる。
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