負ミュオンが水素同位体の混合系に停止した時、軽い同位体のミュオン原子のミュオンは、重い同位体との衝突により移行し、新たなミュオン水素原子を形成する。このミュオン移行反応は主に同じ主量子数の間で起こり、エネルギー準位の差の小さな励起状態ほど速くなる。ミュオン原子が基底状態に到達する際に放射されるLyman X線を検出する事により、基底状態のミュオン原子の数を測定する手法を確立し、直接測定する実験を開始した。予備実験で得られたX線の時間スペクトルには、dμ K_α X線には遅延成分が見られるようだが、dμ K_β X線や、pμ K_α X線、K_β X線にもそのような成分は見られない。 X線測定の時間分解能を格段と向上させるために、カナダのTRIUMF研究所において、DC状のミュオンビームを用いたミュオン移行反応の実験を行った。昨年度は、データの質のよい2回目の実験データ解析を行ってきたが、さらに統計精度の向上のために、今年度は、1回目の実験データの解析も行った。S/N等の問題で、期待したほど有用なデータは得られなかったが、2つのデータ結果を合わせることで、解析結果の精度の向上は図ることができた。以前、私がイギリスのラザフォード・アップルトン研究所で行った実験で得たdμ K_α X線の71nsecという時定数を持った成分は、全体の30%にあたり、ほぼ、ミュオンの移行によってできたdμ原子の総数に相当する。一方、dμ K_β X線には、95%のconfidence levelで、そのような遅延成分の存在は否定できた。これは、ミュオンがpからdに移行して出来たdμ原子が関連しており、主量子数n=2の状態が鍵となる。現在、論文がほぼ完成し、間もなく投稿する予定である。
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