研究概要 |
負ミュオンが水素同位体の混合系に停止した時、軽い同位体のミュオン原子のミュオンは、重い同位体との衝突により移行し、新たなミュオン水素原子を形成する。このミュオン移行反応は主に同じ主量子数の間で起こり、エネルギー準位の差の小さな励起状態ほど速くなる。ミュオン原子が基底状態に到達する際に放射されるLyman X線を検出する事により、基底状態のミュオン原子の数を測定する手法を確立し、直接測定する実験を開始した。以前、私がイギリスのラザフォード・アップルトン研究所で行った予備実験で得られたX線の時間スペクトルには、dμK_αX線には遅延成分が見られるようだが、dμK_βX線や、pμK_αX線、K_βX線には、そのような成分は見られない。X線測定の時間分解能を格段と向上させるために、カナダのTRIUMF研究所において、DC状のミュオンビームを用いたミュオン移行反応の実験を行った。 1.水素同位体問の励起状態でのミュオン移行反応は、これまで考えていたより、その速度は遅いことが再確認できた。これは、脱励起過程にあるミュオン水素原子の持つエネルギーは熱エネルギーではなく、数eVと高いためと考えられ、脱励起過程の間に加速されてきたためと思われる。 2.X線の時間スペクトルには、dμK_αX線には遅延成分が見られるが、dμK_βX線やpμK_αX線、K_βX線にはそのような遅延成分は見られない。dμK_αX線の71nsecという時定数を持った成分は、全体の30%にあたり、ほぼ、ミュオンの移行によってできたdμ原子の総数に相当する。一方、dμK_βX線には、95%のconfidence levelで、そのような遅延成分の存在は否定できた。これは、ミュオンがpからdに移行して出来たdμ原子、特に主量子数が2の状態が関与していると,思われる。
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