研究概要 |
対流圏中高緯度において総観規模擾乱の活動が活発な領域であるストームトラックは,北半球冬季においては,太平洋域と大西洋域に局在化している.このようなストームトラックの東西方向への局在化に対する大気下層における傾圧度の役割と,時間平均循環場に対するフィードバック効果を解明するため,全球が海の水惑星を仮定し,中緯度海面水温(SST)の南北勾配の東西非一様性が大きくなる緯度を様々に変えて,大気大循環モデル(CCSR/NIES AGCM :水平解像度T42,鉛直層数20)の長時間積分を実施し,出現するストームトラックと時間平均場について解析した.これらの実験では,季節は一月に固定した.また,ストームトラックは,対流圏上層の250hPa等圧面における2.5日から6日の周期帯の高度場変動が大きい領域として定義した. その結果,ストームトラックが東西方向に局在化する場合には,低気圧活動に伴う降水によって発生する非断熱加熱によって励起された定在性惑星波が,大気下層の西風鉛直シアーを強化していることが明らかになった.すなわち,降水に伴う非断熱加熱による,移動性総観規模擾乱と定在性惑星波との間の正のフィードバック効果の存在によって,ストームトラックが局在化するという新しいメカニズムを提出することに成功した.従来の研究においては,総観規模擾乱に伴う,渦度や熱フラックスの収束発散によって定在波が励起されるメカニズムの存在は指摘されていたが,本研究で得られた定在波の励起機構の存在を実際に示した研究は他には存在しない.この研究成果は,論文としてまとめられ,Journal of Climateに投稿中である(Inatsu, Mukougawa, and Xie, 2003).
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