研究概要 |
まず一連の研究に先立ち,過去40年間の全球対流圏循環・気候の総合データセットに基づき,大気循環偏差がどの地域で持続し易いかを調査した.その結果,北太平洋のアリューシャン低気圧付近で偏差の持続性が高く,潜在的予測可能性の高いことが示された.また,これら大気循環の長期変動の形成には欠かせない,定常ロスビー波の局所的波束伝播を記述するための力学的診断法の開発にも成功した.これは現在気象庁の月例気候診断においても活用されるようになった. 次に,そのアリューシャン低気圧の経年変動とアイスランド低気圧の変動との関連を調べたところ,2つの低気圧強度が晩冬(2月から3月)にのみ強い負相関を示す事実が判明した.また,両低気圧の変動をもたらす循環偏差は両海域で同時に形成されて行くのではなく,初冬から真冬にかけて北太平洋で成長した循環偏差の影響が,真冬になって初めて定常ロスビー波列として北大西洋へと伝播し,その影響でアイスランド低気圧の強度が変化する事実も判明した. それと並行し,我が国の天候に大きな影響をもたらす冬季極東モンスーンの長期変動を調査した.1980年代前半の持続的寒冬期には極東モンスーンに伴う寒気の南下が強まり,下層の傾圧性と上空の亜熱帯ジェットが共に強化された.従来の理論に拠れば,これは移動性高低気圧波の成長に有利な条件だが,実際には北西太平洋では真冬に擾乱の活動が著しく抑制された.反対に,80年代末以降の持続的暖冬期においては,寒気の南下が弱くて下層の傾圧性も上層ジェットも共に弱かったにも拘わらず,真冬の移動性擾乱は異常に活発であった.その影響で,極東・北西太平洋域において移動性擾乱の活動の季節変化を特徴付けていた「真冬の振幅極小」が近年消滅した事実も判明した.
|