研究概要 |
(1)以前に研究代表者らが呈示した,北太平洋大気海洋結合系の10年規模変動の2つのモードについて,解析結果が解析領域に依存しない相関解析を用いて再検証した結果,その統計的独立性が改めて確認された.また,2つのモードのうちの1つである熱帯、亜熱帯変動に伴う北太平洋冬季の亜熱帯高気圧の循環偏差が複雑な立体構造を示すことが判明した.即ち,上空の渦度収支の違いを反映して,上空の西風の強い地上高気圧の北半分では順圧性の高い構造が,西風の弱い南半分では傾圧的な構造を示す.また,高気圧上空のこの循環偏差の一重構造が,鉛直運動を効果的に変化させることを可能にし、下層の高気圧の強弱と結合し易い構造であることが判った. (2)シベリア高気圧の持続的な弱化に象徴される近年の冬季アジアモンスーンの10年規模変動が北太平洋の移動性高低気圧波の活動に与える影響を詳細に調査した.1987年冬以降のシベリア高気圧の弱化と附随する寒気の南下の弱化と上空の西風ジェットの強度の緩和が,移動性擾乱の北西大平洋の下層傾圧帯における滞留時を延ばし,かつ擾乱に伴う南北流、鉛直流と温度変動との相関を高める効果をもたらし,ジェットのエネルギーをより効果的に変換して成長できる擾乱構造に変化した傾向を発見した.これにより,近年真冬に活発化した移動性高低気圧波の活動に,力学的な解釈を与えることに成功した. (3)アリューシャン、アイスランド両低気圧勢力の経年変動について調査したところ(前者は北太平洋独自の10年規模変動にも関連)、真冬までに発達した前者の変動が定常ロスビー波束として東方に伝わり,北大西洋上の大気循環を変化させ、後者の勢力を変化させることにより,晩冬から早春にかけて,両低気圧の勢力間に顕著なシーソー関係が形成されることが判った.また,この過程において,両大洋上の循環偏差が結合され,大規模な気圧偏差パターンが形成されるため,地表付近を除く対流圏全体で,所謂「北極振動」を凌いで,最も卓越した経年変動パターンとなることも判った.
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