研究概要 |
冬季極東モンスーンの年に依る強弱に伴い移動性擾乱の活動に系統的な変化が生じ,日本の南岸から中緯度北太平洋に至る地域で降水量の偏差をもたらすことで,.海洋への淡水供給や大気中の水蒸気輸送にまで系統的な影響が及ぶことが示された.擾乱活動の変化は従来の傾圧不安定理論では全く説明できないもので,その機構を探究したところ,モンスーンの強化により強まった下層の寒気移流により上空の亜熱帯ジェット気流が著しく強化され,その軸にアジア大陸から中緯度圏界面を伝わってきた上空の擾乱が捕捉されてしまうと,擾乱のその後の発達が阻害されることが判った.総観規模の傾圧的な発達は,圏界面付近の擾乱とそれが地表の傾圧帯に誘起する擾乱との相互作用に因るが,近年のように冬季モンスーンが弱く,亜熱帯ジェットが強く無ければ,上空9km付近の圏界面を伝播してきた擾乱はジェット軸に捕捉されず,北太平洋の亜熱帯・亜寒帯両循環系の境界40°N付近に位置する地表傾注帯のほぼ真上を通過でき,効果的な発達が可能になる.これに対し,1980年代前半のようにモンスーンが強いと,蛇行する偏西風に移流されて南下する擾乱が高度12km,30°N付近に位置する亜熱帯ジェットの軸に捕捉される傾向が強い.こうして,地上傾圧帯との相互作用が阻害されて,擾乱の成長が妨げられることが判った.このことは,地上の傾圧帯を伴わず,ハドレー循環に伴う角運動量輸送で形成される亜熱帯ジェットは移動性擾乱の発達には不向きで,ストームトラックの形成には積極的に寄与しないことを示唆する. 一方,近年真冬から晩冬にかけて,北太平洋上のアリューシャン低気圧の偏差から射出された定常ロスビー波束の影響に因り,北大西洋上に生じたアイスランド低気圧偏差から,定常ロスビー波束が上方へ伝播し,下部成層圏の極夜ジェットに沿って伝播し,波状の循環偏差を形成することも見い出された.
|