研究概要 |
(1)北太平洋大気海洋結合系の10年規模変動の2モードについて再検証した結果,その統計的独立性が改めて確認された.また,2モードのうち熱帯・亜熱帯変動に伴っては,北太平洋亜熱帯冬季の高気圧の循環偏差が複雑な立体構造を示すことが判明した.上空の渦度収支の違いを反映して,地上高気圧の北半分では順圧性的,南半分では傾圧的な構造を示し,この二重構造が鉛直運動を効果的に変化させることを可能にし,下層の高気圧の強弱と結合し易い構造であることが判った. (2)シベリア高気圧の持続的な弱化に象徴される近年の冬季アジアモンスーンの10年規模変動が北太平洋の移動性高低気圧波の活動に与える影響を調査した.1987年冬以降,シベリア高気圧の弱化とそれに附随した寒気の南下の弱化が上空の亜熱帯ジェットの強度を緩和されたため,上空9km付近の圏界面を伝播してきた擾乱はジェット軸に捕捉されず,北太平洋の亜熱帯・亜寒帯両循環系の境界に位置する地表傾圧帯のほぼ真上を通過でき,効果的な発達が可能になった.これに対し,1980年代前半のようにモンスーンが強いと,蛇行する偏西風に移流されて南下する擾乱が高度12km,30°N付近に位置する亜熱帯ジェットの軸に捕捉されたため,地上傾圧帯との相互作用が阻害されて,擾乱の成長が妨げられることが判った.実際,1980年末以降の方が,移動性擾乱の構造がより組織化され,傾圧的発達に適していた傾向も見出された.これらは従来の線型理論では説明不能なメカニズムである. (3)停滞性・移動性を問わず,ロスビー波束の西風中における3次元群速度伝播を記述する力学的診断法の導出に初めて成功した.これをブロッキングなど南半球対流圏の準停滞性季節内循環変動に適用し,南極氷床上に異常気象をもたらすブロッキングが中緯度からの定常ロスビー波束の入射に伴うこと.また,そうしたブロッキングから上方に射出される定常ロスビー波束が下部成層圏に達した後,極夜ジェットに沿って伝播して,そこでの季節内変動に大きく寄与することが初めて示された.
|