研究概要 |
原生代後期には低緯度氷床の証拠が多数発見されており,地球全体が凍結するということが何度か起こったのではないかと考えられている.この"スノーポール・アース"と呼ばれる現象が,気候学的にみてどのような現象であり炭素循環システムの変動とどのように関連づけられるのか,という問題に関する理論的検討を行った. まず,地球放射の二酸化炭素分圧依存性を考慮した0次元及び南北1次元エネルギーバランス気候モデルと,大気-海洋-海底堆積物-地球内部系における炭素の交換プロセスを考慮した炭素循環モデルを新たに開発した.これらのモデルを互いに結合させることによって,炭素循環システムの変動と気候変動との因果関係及び変動の時間スケールについての詳細な解析を行った. その結果,スノーボール・アース現象は大きく4段階に分けて考えることができ,各段階における支配プロセス及び特徴的時間スケールは大きく異なることが明らかになった.それらを以下に簡単にまとめると,寒冷化段階(数十万年):火山活動の低下もしくは有機物埋没率の増加および陸上風化率の減少,スノーボール・アース段階(数百万年):火山活動による二酸化炭素の脱ガス過程,氷床融解段階(数百〜数千年):南北熱輸送および氷床融解過程,気候回復段階(数十万年):陸上風化過程及び炭酸塩沈澱過程,となる.この現象全体を通じて,大気中の二酸化炭素濃度は0.00001気圧〜0.1気圧のオーダーで変動し,また全球平均温度はマイナス40度〜60度と大きく変化する.スノーボール・アース現象が生じるためには,大気二酸化炭素濃度がある臨界値にまで低下することが必要であるが,そこにおいては大気海洋系に対する二酸化炭素の正味供給率がほぼゼロになっていることが明らかになった.
|