本研究は黒潮の流路変動によって引き起こされる急潮の発生機構と沿岸への暖水の進入過程を、係留系による流速観測、人工衛星データの解析、数値モデル実験などにより明らかにすることを目的とした。急潮の被害の最も大きい相模湾を対象海域に選んで大島西水道に流速計と温度計を係留し、黒潮の沿岸への影響をモニターした。2000年1月22日に、大島東水道から黒潮系水の進入があり、沿岸の定置網(総計5ヶ統)に甚大な漁具被害を起こす急潮が発生し、沿岸係留点でこの様子を捉えた。現象は沿岸を反時計回りに約60cm/sの速度で進み、暖水進入に伴う水温上昇は5〜6℃、最も大きい東京湾口では上昇が9〜10℃に達した。急潮は黒潮流路が非大蛇行離岸流路から大蛇行流路に移行する過程で起こっていた。 本研究では、過去に暖水流入により起こった急潮を調べ、特に流速記録のあるものを抽出して解析した。1998年6月1日に起こった急潮は大島東水道から流入した暖水が湾内を反時計回りに移動していたことが分かった。一方、1994年1月9日の急潮は大島西水道から流入した暖水による急潮であった。急潮は相模湾内では反時計回りに移動する沿岸密度流の構造を持っていることが観測から明らかになった。1998年の急潮は黒潮流路が非大蛇行接岸流路から大蛇行流路に、1994年の急潮は非大蛇行接岸流路から離岸流路に移行する過程で起こっていた。黒潮が比較的安定した3つの流路を持つが、安定した流路から別の安定した流路に急激に移行する過程で沿岸での急潮が起こっていることが分かった。 これらの観測および解析結果を踏まえて、現在、数値モデルを構築し、現象を再現することを試みている。
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