本研究における第1の成果として、太平洋赤道海域(8°N-8°S)に展開する定点観測ブイデータを用いた同海域上層海洋における季節内変動シグナルの記述があげられる。表層海流および水温の可能な限りの時系列データに対する解析によって、季節内変動の卓越深度・海域および卓越時期・持続期間などに注目し、シグナルの時空間特性を明らかにした。その結果、20世紀最大規模であった1997-98年エルニーニョ現象の発生期において発達した季節内変動のシグナルは、日付変更線付近を境に対照的な鉛直構造をもつこと、シグナルの発達がインド洋-西部太平洋海域上の海上風に卓越した季節内変動スケールの変動が重要な役割を果たすことが明らかとなった。これらの結果は、国内外での学会発表のほか、論文として米国学術雑誌に掲載された。 第二の成果として、上述の上層海洋における季節内変動の発生要因と考えられるインド洋-西部太平洋海域上における海上風変動の特性があげられる。解析に用いた資料は、近年その実用化が急速に進んだ人工衛星散乱計データである。散乱計データを用いて対象海域における格子化データセットを作成後、季節内スケールに対応する周期帯における変動が抽出された時系列データに対して詳細な解析を行った。その結果、熱帯海域上における海上風の季節内変動は西太平洋およびインド洋上で変動の振幅が大きいこと、東西方向へ伝搬する傾向をもつといった空間特性が明らかになった。特に、1997-98年エルニーニョ現象の発生期に東方伝搬するシグナルが発達するという従来の研究で指摘された特性に加えて、エルニーニョ現象終息期には西方伝搬するシグナルが卓越するという注目すべき特性も明らかになった。以上の結果を学会等で発表したほか、本学の紀要へ論文として投稿し受理された。
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