X線天文衛星「あすか」は、1993年2月から2000年7月まで宇宙の高エネルギー天体の観測を行った。「あすか」は、高度500km程度の低軌道地球周回衛星であるため、軌道上の3分の1程度の時間地球が視野に入る。本研究は、こうして蓄積されたデータを利用して、太陽X線の地球大気アルベドのスペクトルおよび長期変動を調べた。地球大気のX線アルベドには、(1)地球大気によりトムソン散乱された太陽X線、(2)地球高層大気を起源とする蛍光X線の2成分が含まれる。 本研究の結果、以下のような新しい知見が得られた。 1.太陽X線について (1)「あすか」GISによって観測された、0.5-8keV領域の太陽X線スペクトルは、温度0.3keV程度(低温成分)および0.5-0.9keV程度(高温成分)の2温度成分の高温プラズマからの熱放射として記述できる。 (2)いずれの成分の温度も、1993-2000年にわたり、太陽活動周期にともなうような有意な変化はみられなかった。 (3)いずれの成分の強度も、太陽活動周期と同期した変化を示した。 2.地球高層大気を起源とする蛍光X線について (1)地球大気の主たる成分である0、Arなど以外に、Mg、Si、Sなどの中性または低電離原子の蛍光X線を検出した。これらは、地球に降着する宇宙塵が起源であると考えられる。 (2)これらの原子の数密度を評価し、経年変化を調べた。 今後の展開として、(1)アルベドスペクトルの年以下のタイムスケールの変動の調査、(2)「あすか」SISや、他のX線天文衛星のより高いエネルギー分解能をもったX線検出器データによる観測、解析にも取り組みたい。 なお、研究費補助金申請段階では、2000年に打ち上げが予定されていたASTRO-E衛星のデータの利用も視野に入れていたが、軌道投入に失敗したためこれは実現しなかった。
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