研究概要 |
炭素化合物が地球深部の高温高圧の条件下でどの程度安定であるか、またその起源が生物活動以外の無機的な化学反応に由来する可能性があるかを検討する目的でこの研究を行っているが、平成13年度中における主な研究結果は以下の如きである。 (1)前年度迄に岩石中に包有されるCO_2,CO,CH_4及びC_4H_<10>までの気体状炭化水素の分析法を確立したが、本年度は岩石中の液体包有物の分析法を確立し、熱水条件下での有機物の行動を解明する事を試みた。 (2)上記の方法を鉱床における石英岩脈に応用した。この研究には主に鹿児島県における本邦最大の金鉱床である菱刈鉱山の試料、約120個を用いた。その結果、メタン、エタン、ギ酸、酢酸などの有機物は、700℃ぐらい迄安定に存在している事が分かった。そして、その熱力学的な検討を行ない、鉱床生成時におけるこれらの分子の行動を規制していた温度と酸素分圧の見積もりを行なった。それらの分子の平衡温度は400℃から600℃、酸素分圧は-18から-28ぐらいの範囲にわたっている。しかもその変動は、NNO(Ni-NiO)bufferと呼ばれている酸素分圧緩衝作用にごく近い事、それは金鉱床を生成した原料を支配したものが、深部にかくされている珪長石の貫入岩に由来している事を示している。このように流体包容物に含まれる気相としてのメタン、エタンと、液相に含まれる、ギ酸、酢酸は全く同じ物理化学的条件に支配されていて、生物学的な起源を持つものではなく、無機的に合成、乃至は再編成されている事が明かとなった。さらに、ここで推定された酸素分圧と温度は金の沈澱量と密接な関係を持つ事も分かり、この研究で開発された方法は鉱床の成因を解明するのに有用である事も立証された。 (4)衝撃波によって惹起される有機化学的の反応を検討するため、宇宙での存在が認められているフェナントレンに衝撃銃によって反応を起こさせ、その生成物を分析したが原材料と異なる分子、数十種確認された。 (5)宇宙、とくに隕石、惑星などにおける化学種の起源と分布に対する衝撃波の役割に関する従来の我々の研究を総括紹介すると共に、従来、公表されている内外の文献を渉猟し、総説としてまとめた。
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