本研究では、さまざまな埋没林・埋没材の年輪解析により、以下の成果が得られた。 1.年輪幅変動に現れる生態特性 青森県の大矢沢野田で約5000年前の十和田中セリ火山灰層の直下から出土したブナ材では、共通して見られる特徴として、10年程度の周期で極端に年輪幅の狭くなる年が出現した。並行して進めた現生のブナの年輪幅変動では豊作年に大きな年輪幅の落ち込みが確かめられたが、埋没林のブナではこれよりもはるかに強度の大きな落ち込みを示した。同様の強い落ち込みは福島県の沼沢湖火砕流(約5000年前)中から得られた炭化したブナ材にも見られ、この当時のブナの繁殖特性が現在とは異なり、繁殖への資源投資がより強く行われていたことが示唆された。 2.成長曲線からみた更新特性 大矢沢野田では十和田八戸火砕流(約13000年前)堆積物に覆われた氷期のカラマツ属を主体とする針葉樹埋没林が得られ、年輪解析の結果、当時の森林が開けた環境で更新していたことが明らかになった。中国・北朝鮮国境の約1000年前の白頭山の火砕流内で得られた針葉樹でも初期成長に被圧が無く、明るい環境での更新が示唆された。 3.年代決定 白頭山、大矢沢野田の火砕流中の針葉樹材は年輪解析で同一年枯死が確認できた。白頭山と沼沢の材については単年試料の切り分けが終了し、今後14Cウイグルマッチチングでの高精度噴火年推定を行う予定である。青田遺跡のコナラ属の柱材の年輪解析では、当時の建物の相対的な年代関係の概要を明らかにすることができた。 年輪情報は、検証を経たデータをデータベース化する事により、年代決定や気象解析などさまざまな目的に利用できる。そこで、この研究で得られたデータのうち、手始めに青田遺跡出土材について、平成16年5月を目途にデータベース化し、ネット上で公開して他の研究者が利用できる体制を構築予定である。
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