研究概要 |
本研究課題における本年度の目的は,1)新第三紀〜第四紀堆積物中に産する生痕化石の解析をもとに,生物撹拌作用の概要を把握しまとめること,2)宮城県北部の南部北上帯に分布する中生代二畳紀〜前期白亜紀の地層に見られる生痕化石群集の更なる把握,そして3)北海道の白亜紀と高知県佐川の三畳紀を調査対象に加えることであった. 1)に関しては,表層堆積物の撹拌作用が,内在型歪形ウニ類の移動活動にともなう撹拌,トビエイ類に代表される底生魚類の摂食活動にともなう撹拌,内在型環形動物類の移動と摂食・排泄行動にともなう撹拌,表層堆積物食者の摂食・排泄行動にともなう撹拌,定住生活を保証する巣穴形成にともなう撹拌,といった多種多様な生活・行動様式が複雑に関与していることが,より明瞭となった. 2)では,この時代の浅海相を特徴づける生痕化石が,Phycosiphon incertum,Scalarituba isp.,Zoophycos isp.といった泥食者の摂食・排泄行動によって形成されたもので特徴づけられる一方,長期定住型生活様式を反映して形成されるOphiomorpha nodosaが,白亜紀最初期に突如出現することが確実となった.これらのことは,ジュラ紀末までは堆積物極表層部で自由生活を採用する泥食者の摂食・排泄行動が生物撹拌作用の主たる担い手であり,その後は,巣穴形成にともなう表層堆積物の鉛直方向での大きな移動と間隙水の移動が付加したことを示唆している.このことは,従来は全く知られていなかった事実であり,生物撹拌作用の解釈を大きく変更する必要性があることを意味している. 3)は,達成順位の高い上記目的を優先させたため,今年度の着手がかなわなかった.ただ,高知県での調査を予定していた三畳紀の地層に関しては,宮城県の調査で代替が可能であることが判明したため研究全体への影響は大きくない.
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