研究概要 |
この研究では,二枚貝類の進化を生活様式と生息地の変遷に焦点を当てて理解することをめざしている.3年計画の初年度である本年は,二枚貝類の生活様式としてはやや特殊な,岩石穿孔生活者に重点をおいて研究を行った.従来から,二枚貝類はジュラ紀になって本格的に穿孔生活を始め,木材や岩石に物理的に穿孔するようになったことは知られていた.しかし,現生,および化石ニオガイ亜科の形態と生息底質を検討した結果,柔らかい堆積岩に穿孔する二枚貝が現れたのはこれより後の,新生代の中新世であることが明らかとなった.柔らかい岩石に穿孔するのは,硬い岩石に穿孔するのに比べて物理的には容易なはずであるが,これが後になって出現している事実は進化パタンの生態的意味を考える上で興味深い. また,二枚貝類で最も多い砂泥底生活者については,これまでの研究を補足することに努め,高知県の下部白亜系物部川層群日比原層(Nipponitrigonia属,Pterotrigonia属,Goshoraia属,Glycymeris属の二枚貝),南部北上地域の下部ジュラ系志津川層群韮ノ浜層(トリゴニア類),北上地域の下部白亜系宮古層群,上部三畳系河内ケ谷層群(Otapiria属など)について,フィールドワークを実施した.例えば,日比原層では,堆積構造と化石群についての詳細で定量的な検討により,白亜紀以前の中生代から,浅海砂底で中心的な存在であったサンカクガイ科のNipponitrigonia属,およびPterotrigonia属が下部外浜に生息していたこと,また下部外浜から沖合いへの漸移帯に,生態的に新しいGlycymeris属やGoshoraia属が出現していることがはっきりした.このことは,二枚貝類の進化を生活様式と生息場所の点から理解しようとする際に重要な知見である.
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