本研究は太平洋および大西洋のサンゴ礁海域の海底洞窟(以下、洞窟)に特有な洞窟性貝形虫で、「生きた化石」とも言えるSigillidae(科)貝形虫の分類、起源、進化を明らかにすることを目的としている。昨年度までの研究により、洞窟性Sigillidae(科)貝形虫について、すでに記載済みのKasellaと未公表の新属、Genus AおよびGenus Bが新生代以降深海泥底に生息しているSigillidae(科)貝形虫のCardobairdia、Genus Cが白亜紀以降サンゴ礁砂底(砂間隙)に生息しているSaipanettaに由来するとの結論を得た。今年度の主な研究結果として、Genus AはKasellaに近縁、Genus BはCardobairdiaに近縁でかつGenus AとKasellaの祖先形に近いことを明らかにした。 Genus AとKasellaは極めて近縁であるものの、いずれが祖先形に近いかについてはいま一つ明らかではなく、今後の課題となる。又、洞窟性Sigillidae(科)貝形虫の地理的分布を明らかにするため、他研究者に提供して頂いた海底洞窟からの試料も含め、大西洋(バミューダ諸島、グレートケイマン島)、太平洋(パラオ諸島など10ヵ所)およびインド洋(クリスマス島)からの新たな試料、あるいは追加試料を調べた。その結果、予察的ながら、上記の洞窟固有の4属は西太平洋の中でもフィリピン海の海溝付近にあって、北赤道海流〜黒潮に沿うパラオ諸島からフィリピン、さらに琉球列島にかけての海域に限定されることを明らかにするとともに、大西洋のグレートケイマン島から発見された洞窟性Sigillidae(科)貝形虫はこれまでサンゴ礁砂底特有とされてきたSaipanettaの一種であることを再確認した。現在は、今年中に上記新属の記載と洞窟性Sigillidae科貝形虫の進化に関する論文、および上記の洞窟性のSaipanettaに関する論文を投稿すべく作業を進めているところである。
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