Sigillidae科貝形虫(以、slgillids)は不等殻や多数の閉殻筋痕をする原始的なポドコピーダ目貝形虫だが、筆者は太平洋のサンゴ礁域において、公表済みのKasellaを含む洞窟固有のsigillidsの4新属を発見した。本研究では、sigillidsの全ての属の殻形質を属間で比較検討し、属間の類縁関係、洞窟性sigillidsの起源と進化について推定した。 sigillidsは殻表面の装飾の有無によりCardobairdia、Saipanetta、Genus Aのnon-ornate sigillidsとKasella、Genus B、Genus Cのornate sigillidsに二分しうる。non-ornate sigillidsの内、Cardobairdiaは右殻の蝶番が本来の蝶番要素からなり、ornate sigillidsに近い。Saipanetta、Genus Aは右殻の蝶番が二層構造を示す点で互いに近縁である。ornate sigillidsは殻外形、殻表面の模様、小筋痕の形態などから、Genus BがCardobairdiaに近く、Genus CはKasellaに近い一方でGenus Bと蝶番構造で一致する。Kasellaは多くの'advanced features'をもつ一方で、原始的な蝶番構造やこれまでCardobairdiaにだけみられた右殻後部の刺状突起を有するが、これは一種の'先祖返り'と考えられる。非洞窟性のCardobairdiaとSaipanettaのみ中生代以降の化石記録をもつが、この化石記録を重視する限り、洞窟に固有のsigillidsは非洞窟性のsigillids、又はそれに近縁な未知のsigillidsを祖先とするのが妥当である。Genus AはSaipanetta又はそれに近縁な貝形虫タクサ、Genus BはCardobairdia又はそれに近縁なタクサ、Genus CはGenus B又はそれに近縁なタクサ、KasellaについてはGenus C又はそれに近縁なタクサを祖先として進化した可能性が高い。 本報告では殻形質をもとにした研究結果について述べたが、付属肢については研究を続行中で2年後を目処にその成果を公表する予定である。
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