今年度の研究により以下の成果を得た。現在、論文作成中である。 1)サザエによる付着物実験 継続飼育していた付着実験用のサザエは、ほとんどの個体が、付着迂回からさらに半〜1巻きほど成長し、昨年度報告した以下のパターンがさらに強く一般的な傾向であることが確認された。 <殻表面の予定被覆部に付着させた障害物に対する、一般的な迂回反応> 1)付着物直前で下方(殻頂と反対側)に迂回開始、2)迂回終了後に上方回帰、3)ほぼ正常な縫合線付近まで復帰し、4)1巻き後に下方迂回開始時の螺管に到達し、再度下方迂回、5)そしてその後さらに上方回帰し、6)また正常縫合線付近に復帰する。 2)殻成長のシミュレーション用プログラムの開発 昨年より開発を継続していたシミューレーション用プログラム(C言語)がほぼ完成した。 シミュレーションの結果、以下のような機構で巻貝類が殻を成長させているときに、上述した迂回パターンを説明することができることが分かった。 <殻の成長機構> 結論) 1.巻貝類の殻の巻く方向は、足収縮筋が外套膜を押し付ける場所に主に依存して決定される。 2.殻内部の軟体部(内臓塊など)の成長(細胞増殖)パターンは、内在的(遺伝的)に決定されている部分は小さく、むしろ殻成長を補完しながら従属的に決定されている。 3.匍匐型の巻貝類では足が外套膜を常に強く押し付けているため、螺層の離れた緩い巻き成長(disjuncted coiling)は行えない。これは固着型巻貝でのみ実現可能である。
|